口な馬は魔法使にちがいないと私は考えました。そこで次のように話しかけてみました。
「諸君、どうもあなたたちは魔法使のように思えるのですが、魔法使なら、どこの国の言葉でもわかるのでしょう。だから一つ申し上げます。実は私はイギリス人ですが、運悪くこの島へ流れ着いて、困っているところなのです。それで、どこか私を救ってもらえる家か村までつれて行ってくださいませんか。ほんとの馬のように私を乗せて行ってほしいのです。そのお礼には、この小刀と腕環を差し上げますよ。」
こんなふうに私がしゃべっている間、二匹の馬は黙ってじっと聞いていましたが、私の話がすむと、今度は互に何か相談するようにいなゝき合いました。
私は馬の声を注意して聞いていましたが、何度も「ヤーフ」という言葉が聞えるのです。二匹ともその「ヤーフ」という言葉をしきりに繰り返していますが、私には何の意味なのか、さっぱりわかりません。けれども、彼等の話が終ると、私は大声で、はっきり、
「ヤーフ」
と言ってやりました。
すると彼等は大へん驚いたようです。それから青毛が近寄って来ると、
「ヤーフ ヤーフ」
と教えるように二度繰り返しました。私もできるだけ、その馬の声をまねしてみました。すると今度は栗毛が、別の言葉を教えてくれました。これは、「フウイヌム」という、むずかしい言い方でした。とにかく私が馬の言葉がまねできるので、彼等はとても感心したようです。それから、彼等はまだ何かしばらく相談していましたが、それがすむと、また前と同じように、蹄を打ち合せて二匹は別れました。
青毛の方が私を振り返って、手まねで歩けと言いました。私は黙ってついて行くことにしました。私がゆっくり歩くと、彼はきまって、「フウン、フウン」と叫びます。これはたぶん、ついて来いという意味なのでしょう。
三マイルほど行くと、一つの建物がありました。材木を地に打ち込んで、横に木の枝を渡したもので、屋根は低く、藁葺《わらぶき》でした。馬は私に先に入れと合図しました。
中に入ってみると、下の床は滑らかな粘土で出来ていて、壁には大きな秣草棚《まぐさだな》や秣草桶がいくつも並んでいます。子馬が三匹と牝馬が二匹いました。別に物を食べているのでもなく、ちゃんと、お尻を床の上につけて、坐っているのです。私はびっくりしました。
もっと驚いたのは、ほかの馬たちが、みんなせっせと家の仕事をしていることでした。なにしろ、馬をこんなふうに数え、仕込むことのできる人間なら、よほど偉い主人にちがいないと、私は感心しました。
この部屋の向うには、まだ三つ部屋がありました。私たちは二つ目の部屋を通って、三つ目の部屋へ近づいて行きました。青毛は、そこで私に待っておれと合図しました。私は戸口で待ちながら、この家の主人と奥さんに贈るつもりで、小刀を二つ、真珠の腕環を三つ、小さな鏡、それから真珠の首飾などを用意しておきました。
青毛は、その部屋に入って、三四度いなゝきました。すると、彼の声よりもっとかん高い声で、誰かゞいなゝきました。人間の声はまだ聞えません。しかし、私は向うの部屋に、どんな貴い人が住んでいるのだろうか、と考えました。面会を許してもらうのに、こんな手数がかゝるのでは、この国でも、よほど位のいゝ人なのでしょう。だが、それにしては、そんな貴い人が、馬だけを家来に使っているのは、少し変です。
これは私の頭の方が、どうかしたのではないかしらと思いました。私は今、立っている部屋の中をよく/\見まわしてみました。何度、目をこすってみても、そこは前と変らないのです。夢ではないかしらと、目がさめるように、脇腹をつねってみました。が、夢でもないのです。それでは、これはみんな魔法使の仕業《しわざ》にちがいない、と私は決めました。
ちょうど、そのとき、青毛が戸口から顔を出して、私に入れと合図しました。中に入ってみて、私は驚きました。上品な牝馬が一匹、それに子馬が一匹、小ざっぱりした筵《むしろ》の上にきちんと坐っているのです。
牝馬は延から立ち上ると、私のそばへ来て、私の手や顔をジロ/\眺めました。それから、いかにも私を軽蔑するような顔つきで、
「ヤーフ」
とつぶやきました。そして、青毛の方をかえりみては、お互に何回となく、この「ヤーフ」という言葉を繰り返しているのです。
青毛は私の方へ首を向けて、「フウン、フウン」としきりに繰り返しました。これは、ついて来い、という合図なのでした。そこで私は彼について、中庭のところへ出ました。家から少し離れたところに、また一棟、建物がありました。そこへ入ってみて、私はあッと思いました。
私が上陸してすぐ出くわした、あのいやったらしい動物がいたのです。その三匹の動物がいま、木の根っこや、何か生肉をしきりに食っ
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