桙で来ました。海賊どもは、恐ろしいけんまくで、手下の先頭に立って入って来ましたが、私たちがおとなしくひれ伏しているのを見ると、丈夫な縄で、一人残らずしばりあげ、番人を一人つけておいて、そのまゝ彼等は船中を探しに行きました。
 海賊の中に、一人のオランダ人がいましたが、私たちを今に海の中にほうりこんでやるぞ、と言っていました。海賊船の一隻の方は、日本人が船長でした。その男は私のところへやって来て、いろんな質問をするので、私は一つ/\、ていねいに答えました。すると彼は、命だけは助けてやる、と言いました。やがて、私は小さな舟に一人乗せられ、八日分の食物を与えられ、そして、どこへでも一人で勝手に行くがいゝ、と海へ放されました。
 海賊船を離れて、しばらく行くと、私は望遠鏡で島影を五つ六つ見つけました。そこでとにかく一番近い島へ漕ぎつけるつもりで、帆を張りました。すると三時間ばかりで、その島へ着きました。見ると、海岸は岩だらけなのです。だが、鳥の卵がたくさん見つかったので、火をおこして枯草を燃やし、卵を焼いて食べました。その晩は、岩の陰に木の葉を敷いて寝ましたが、よく眠れました。
 翌日は次の島へ渡りました。それからまた次々へと渡って行きました。そして五日目に、私はまだ見残していた島の方へ向いました。
 その島は、思ったより遠く、渡るのに、五時間もかゝりました。私はぐるりと島を一まわりしてみて、上陸するのに都合のいゝ所を見つけました。
 上ってみると、あたりは岩だらけで、たゞ、ところ/″\に、雑草や、香のいゝ薬草などが生えています。私は食物を取り出して、腹ごしらえをすると、残りは洞穴の中にしまっておきました。それから岩の上で卵を拾ったり、乾いた枯草を集めました。私は明日はひとつ、これに火をつけて、卵を焼いておこうと思いました。その夜は、食物をしまいこんだ洞穴に入って、拾い集めた枯草の上で寝ました。けれども、私は心配でなか/\眠れなかったのです。
 こんな無人島で、どうして生きてゆけるでしょう。いずれ私はみじめな死に方をしなければならないのです。こんなことを考えていると、私はぐったりしてしまって、立ち上る元気も出なかったのです。それでも、気を取りなおして、やっと洞穴から這い出ましたが、そのときには、もう日が高くのぼっていました。私はしばらく、岩の間を歩きまわりました。
 空には雲一つなく、太陽がギラ/\照りつけるので、まぶしくて顔をそむけていました。
 そのときでした。突然、あたりが暗くなったのです。しかも、これは太陽が雲にさえぎられたときの暗さとは違っていました。振り返って見ると、これはまたどうしたことでしょう。今、私と太陽との間に、何か途方もなく大きなものが、ずん/\島の方へ向って進んで来るのです。高さは二マイルばかりありそうでした。そして、六七分間というものは、すっかり、太陽を隠してしまいました。
 やがて、その物は私の真上に来ましたが、見ると、どうもそれは固い塊りのようで、底の方が平たくなっているのです。ちょうどそのとき、私は二百ヤードばかりの高い丘の上に立っていたのですが、やがて、その大きな物はずん/\下にさがって来ました。そして、私から一マイルとは離れていない眼の前に見えて来たのです。私はさっそく、望遠鏡を取り出して眺めました。その物体の斜面には、たくさんの人間が上下に動きまわっているのです。その姿がはっきりと見えるのです。たゞ、何をしているのかは、わかりませんでした。
 私は、今、空に浮んでいるその島が、どちら側へ動きだすかと、じっと眺めていました。が、間もなく、島はこちらの方へ近づいて来たのです。見ると、その側面には、通路が何段にも分れていて、ところ/″\に階段があって、のぼりおりできるようになっています。一番下の通路では、数人の男が長い釣竿で魚釣をしているし、それをそばから眺めている男もいます。
 私はその島に向って、帽子とハンカチを振りましたが、いよ/\近づいて来たので、声をかぎりに叫んでみました。そのうちに、向うでは、私の一番よく見える側へ、人々がぞろ/\集って来ました。そして、彼等は今しきりに私の方を指さしながら、互に顔を見合せているのです。と、四五人の男が階段を駈け上って行ったかと思うと、そのまゝ見えなくなりました。これはきっと誰か偉い人のところへ私のことを告げに行ったのだろう、と私は考えました。そして、それはそのとおりでした。
 人の数が次第にふえてきました。それから半時間ばかりすると、島は上の方へのぼって行き、一番下の道路が、私の立っている丘から、百ヤードぐらいのところに、真正面に見えてきました。私は一生懸命、救いを求めるように話しかけてみましたが、何とも答えてくれません。私のすぐ前に立っている人々は、その
前へ 次へ
全63ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
スウィフト ジョナサン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング