に載せておいたのです。これは天気のいゝ日なら、私を外気にあてるため、いつもそうしていました。そこで、私は箱の窓を一枚あけて、食卓について、朝食のお菓子を食べていました。その匂に誘われて二十匹ばかりの地蜂が部屋の中に飛び込んで来ると、てんでに大きな唸りをたてました。
なかには私のお菓子をつかんで、粉々にしてさらって行く奴もいるし、私の頭や顔の近くにやって来て、ゴー/\と唸って脅す奴もいます。しかし、私も剣を抜いて彼等を空中に切りまくりました。四匹は打ちとめましたが、あとはみんな逃げ去ったので、私はすぐ窓を閉めました。この蜂は鷓鴣《しゃこ》ぐらいの大きさでした。針を抜き取って見ると、一インチ半もあって、縫針のように鋭いものでした。私はそれを大事にしまっておいて、その後、いろ/\の珍品と一しょにイギリスに持って戻りました。
こゝで私はこの国の有様をちょっと簡単に説明しておきたいと思います。
この国は大きな半島になっていて、北東の方に高さ三十マイルの山脈がありますが、それらの山は頂上がみな火山になっているので、そこから向うへ越すことはできないのです。だから、その向うには、どんな人間がいるのか、はたして人が住んでいるのかどうか、それはどんな偉い学者にもわからないのです。国の三方は海で囲まれていますが、港というものは一つもないのです。海岸には尖った岩が一面に立ち並んでいて、海が荒いので舟で乗り出す人はいません。この国の人は他の国と行き来することはまるでないのです。大きな川には舟が一ぱい浮んでいて、魚類はたくさんいます。この国の人たちは海の魚はめったに取りません。というのは、海の魚はヨーロッパの魚と同じ大きさなので、取ってもあまり役に立たないからです。しかし、とき/″\、鯨が巌にぶっつかって死ぬことがあります。これは捕えて、みんな喜んで食べています。
この国は非常に人口が多くて、五十一の大都市と百近くの町や村落があります。国王の宮殿の建物は不規則に並んでいて、その周囲は七マイルあります。
グラムダルクリッチと私には馬車が許されたので、これに乗って、市内見物に出たり、店屋に行ったものです。私はいつも箱のまゝつれて行かれるのですが、街の家々や人々がよく見えるように、彼女はたび/\、私を取り出して手の上に乗せてくれました。ある日、たま/\馬車をある店先に停めると、それを見て乞食の群が、一せいに馬車の両側に集って来ました。これは実にもの凄い光景でした。胸におでき[#「おでき」に傍点]のできた女が一人いましたが、とても大きく脹れ上っていて、一面に孔だらけなのです。その孔というのが、私の身体など潜り抜けることができそうな奴です。だが何よりたまらなかったのは、彼等の着物を這いまわっている虱でした。それがちょうど、あのヨーロッパの虱を顕微鏡で見るときよりも、もっとはっきり肉眼で見えます。そして、あの豚のように嗅ぎまわっている鼻など、こんなものを見るのは、はじめてゞした。
いつも私を入れて歩いていた箱のほかに、王妃は、旅行用として、小さい箱を一つ作らせてくれました。今までのは、グラムダルクリッチの膝には少し大き過ぎたし、馬車で持ち運ぶにも少しかさばり過ぎたからです。この旅行用の箱は、正方形で、三方の壁に一つずつ窓があり、どの窓にも外側から鉄の針金の格子がはめてあります。一方の壁には窓がなくて、二本の丈夫な留金がついています。私が馬車で行くときには、乗手がこれに革帯を通して、しっかり腰に結びつけるのです。
こんなふうにして、私は国王の行列に加わったり、宮廷の貴婦人や大臣を訪問したりしました。というのも、両陛下のおかげで、私は急に大官たちの間で有名になってきたからです。旅行中もし馬車にあきると、召使が彼の前の蒲団の上に箱を置いてくれます。そこで、私は三つの窓から外の景色を眺めるのでした。この箱には、折り畳みのできるベッドが一つ、ハンモックが一つ、椅子が二つ、テーブルが一つ、それ/″\、床板にねじ[#「ねじ」に傍点]で留めて、馬車が揺れても動かないようにしてありました。私は長い間、航海に馴れていたので、馬車の揺れるのも、わりに平気でした。
4 猿にからかわれて
私は身体が小さいために、とき/″\、滑稽な出来事に会いました。
グラムダルクリッチは、よく私を箱に入れて、庭につれ出し、そしてときには、箱から出して手の上に乗せてみたり、地面を歩かせてみたりしていました。あるとき、それはまだあの侏儒が宮廷にいた頃のことですが、彼が庭までついてやって来たのです。ちょうど、彼と私のすぐ傍に、盆栽の林檎の木がありました。この盆栽と侏儒を見くらべていると、なんだかおかしくなったので、私はちょっと、彼を冷やかしてやりました。すると、このいたずら小僧は
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