ハ白かったのは、綱渡りです。これは地面から二フィート十二インチばかりに、細い白糸を張って、その上でやります。
 この曲芸は、宮廷の高い地位につきたいと望んでいる人たちが、出て演じるのでした。選手たちは子供のときから、この芸を仕込まれるのです。仮に、宮廷の高官が死んで、その椅子が一つ空いたとします。すると、五六人の候補者が、綱渡りをして皇帝に御覧にいれます。中で一番高く跳び上って落ちない者が、その空いた椅子に腰かけさせてもらえるのです。
 ときには大臣たちが、この曲芸をして、こんなに高く跳べますよと、皇帝に御覧にいれることもあります。大蔵大臣のフリムナップなど、実にあざやかで、高く跳び上ります。私は彼が細い糸の上に皿を置いて、その上でとんぼ[#「とんぼ」に傍点]返りをするところを見ました。
 だが、この曲芸ではとき/″\、死人や怪我人を出すことがあります。私も選手が手足をくじいたのを二三回見ました。中でも、一番あぶないのは、大臣たちの曲芸です。それはお互に仲間の者に負けまいとして、あんまり気張ってやるので、よく綱から落っこちます。大蔵大臣のフリムナップでさえ、一度なんか、も少しで頭の骨を折るところでしたが、下に国王のクッションがあったので、助かったということです。
 それから、もう一つ、ほかの見世物があります。これは皇帝と皇后と総理大臣の前だけで、やらされる特別の余興なのです。皇帝はテーブルの上に、長さ六インチの細い絹糸を三本置きます。一つは青、一つは赤、もう一つは緑の糸です。皇帝は、特に取り立てゝ目をかけてやろうとする人たちに、この賞品をやるのです。
 まず宮廷の大広間で、候補者たちは、皇帝からいろんな試験をされます。皇帝が手に一本の棒を構えていると、候補者たちが一人ずつ進んで来ます。棒の指図にしたがって、人々は、その上を跳び越えたり、潜ったり、前へ行ったり後へ行ったり、そんなことを何度も繰り返すのです。
 この芸を一番うまく熱心にやった者に、優等賞として、青色の糸が授けられます。二等賞は赤糸で、緑が三等賞です。もらった糸は、みんな腰のまわりに巻いて飾ります。ですから、宮廷の大官は大がい、この帯をしています。
 軍隊の馬も皇室の馬も、毎日、私の前を引きまわされたので、もう私を怖がらなくなり、平気で私の足許までやって来るようになりました。私が地面に手を差し出すと、乗手
前へ 次へ
全125ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
スウィフト ジョナサン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング