アれはほんとに塵をなめるのだということがわかりました。
 宮廷に着いて二日目に、私はいよ/\陛下の前に呼び出されました。すると、私は腹這いになれ、と命じられました。そして、陛下の前まで進んで行き、床の塵をペロ/\なめろ、と言われました。もっとも私は外国人なので、特別の扱いをされて、床は綺麗にしてありましたので、塵も大したことはなかったのです。しかし、これは全く特別扱いで、この国の一番偉い人と同じように扱ってくれたわけです。
 ひどいのになると、宮廷で気に入らない人がやって来ると、わざ/\塵をまき散らしておくのです。
 私はこの宮廷で、ある大官が口の中を塵だらけにして、ものも言えず困っているところを見ました。もしこんな場合、相手が陛下の前で、唾を吐いたり、口を拭いたりしたら、すぐ死刑にされてしまいます。
 それからこの宮廷では、もう一つ、面白くない慣習があります。それは、もし王が誰か家来をそっと死刑にしてやろうと思われると、この床の上に、毒の粉をまき散らすように、お命じになります。それを家来がなめれば、二十四時間で死んでしまうというのです。しかし、こうして死刑がすむと、あとは必ず床についている毒を綺麗に洗い落しておくよう、お命じになります。
 あるとき、私は一人の侍童がひどく叱られているのを見ました。それは、床にまいた毒を、あとで綺麗に掃除しておかなかったからです。そのため、一人の立派な青年が、陛下の前で、毒をなめて死んでしまいました。そのとき、陛下は、彼を殺そうとはちょっともお考えにならなかったので、ひどく残念がられました。
 王は私との会見が大へんお気に召されました。
 私と通訳に宮中の部屋を貸してくださって、毎日、食事とお小遣を与えてくれました。私は王にすゝめられて、この国に三ヵ月間滞在しました。ラグナグ人は、礼儀正しい国民でした。私は上流貴族と、おもに附き合いました。通訳つきで話をしたのですが、気まずいものではなかったのです。

     4 死なゝい人間

 ある日のことでした。一人の紳士がふと私にこんなことを尋ねました。
「あなたはこの国のストラルドブラグというものを見ましたか。これは『死なゝい人間』という意味なのですが。」
「あいにくまだ見ていません。しかし、死なゝい人間なんて、一たい、どうして、そんな名前をつけるのですか。そのわけを教えてください。」

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