ネいし、いくら呼んでみても、返事がないので、気狂のようになって探しまわっていたところでした。それで、今、園丁を見つけると、
「そんな犬飼っておくのがいけないのです。」
 と、ひどく彼を叱りつけました。
 これは面白かったとも、癪にさわったともいえることなのですが、私が一人で歩いていると、小鳥でさえ、私を怖がらないのです。まるで、人がいないときと同じように、私から一ヤードもないところを、平気で、虫や餌を探して、跳びまわっていました。あるときなど、一羽のつぐみ[#「つぐみ」に傍点]が、実にずう/\しいつぐみ[#「つぐみ」に傍点]で、私がグラムダルクリッチからもらった菓子を、ひょいと、私の手からさらって行ってしまいました。捕えてやろうとすると、相手はかえって私の方へ立ち向って来て、指を啄《つつ》こうとします。それで、私が指を引っ込めると、今度は、平気な顔で、虫やかたつむり[#「かたつむり」に傍点]をあさり歩いているのでした。
 だが、ある日とう/\、私は太い棍棒を持ち出して、一羽の紅雀めがけて力一ぱい投げつけると、うまく命中して、相手は伸びてしまいました。でさっそく、首の根っ子をつかまえ、乳母のところへ喜び勇んで、持って行こうとしました。
 ところが、鳥はちょっと目をまわして気絶していただけなので、じきに元気を取り戻すと、両方の翼で、私の顔をポカ/\なぐりだしました。爪で引っ掻かれないように、私は手をずっと前へ伸してつかまえていたのですが、よっぽどのことで、もう放してしまおうかと思ったのです。しかし、そこへ、召使の一人がかけつけて来て、鳥の首をねじ切ってしまいました。そして翌日、私はそれを料理してもらって食べました。
 王妃は、私から航海の話を聞いたり、また私が陰気にしていると、いつもしきりに慰めてくださるのでしたが、あるとき私に、帆やオールの使い方を知っているか、少し舟でも漕いでみたら、健康によくはあるまいか、とお尋ねになりました。
 私は、普通の船員の仕事もしたことがあるので、帆でもオールでも使えます、とお答えしました。だが、この国の船では、どうしたものか、それはちょっとわかりませんでした。一番小さい舟でも、私たちの国の第一流の軍艦ほどもあるので、私に漕げるような船は、この国の川に浮べられそうもありません。しかし王妃は、私がボートの設計をすれば、お抱えの指物師にそれを
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