如何《いか》にぞや、彼は露ばかりもさせる気色《けしき》は無くて、引けども朝顔の垣を離るまじき一図の心変《こころがはり》を、貫一はなかなか信《まこと》しからず覚ゆるまでに呆《あき》れたり。
宮は我を棄てたるよ。我は我妻を人に奪はれたるよ。我命にも換へて最愛《いとをし》みし人は芥《あくた》の如く我を悪《にく》めるよ。恨は彼の骨に徹し、憤《いかり》は彼の胸を劈《つんざ》きて、ほとほと身も世も忘れたる貫一は、あはれ奸婦の肉を啖《くら》ひて、この熱膓《ねつちよう》を冷《さま》さんとも思へり。忽《たちま》ち彼は頭脳の裂けんとするを覚えて、苦痛に得堪《えた》へずして尻居に僵《たふ》れたり。
宮は見るより驚く遑《いとま》もあらず、諸共《もろとも》に砂に塗《まび》れて掻抱《かきいだ》けば、閉ぢたる眼《まなこ》より乱落《はふりお》つる涙に浸れる灰色の頬《ほほ》を、月の光は悲しげに彷徨《さまよ》ひて、迫れる息は凄《すさまし》く波打つ胸の響を伝ふ。宮は彼の背後《うしろ》より取縋《とりすが》り、抱緊《いだきし》め、撼動《ゆりうごか》して、戦《をのの》く声を励せば、励す声は更に戦きぬ。
「どうして、貫一さん、
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