おもて》を回《めぐら》さず、細雨《さいう》静《しづか》に庭樹《ていじゆ》を撲《う》ちて滴《したた》る翠《みどり》は内を照せり。
「荒尾さんと有仰《おつしや》るのは貴方で」
 彼は先づかく会釈して席に着きけるに、婦人は猶も面《おもて》を示さざらんやうに頭《かしら》を下げて礼を作《な》せり。しかも彼は輙《たやす》くその下げたる頭《かしら》と※[#「※」は「てへん+主」、349−11]《つか》へたる手とを挙げざるなりき。始に何者なりやと驚《おどろか》されし貫一は、今又何事なりやと弥《いよい》よ呆《あき》れて、彼の様子を打矚《うちまも》れり。乍《たちま》ち有りて貫一の眼《まなこ》は慌忙《あわただし》く覓《もと》むらん色を作《な》して、婦人の俯《うつむ》けるを※[#「※」は「にんべん+乞」、349−13]《き》と窺《うかが》ひたりしが、
「何ぞ御用でございますか」
「…………」
 彼は益《ますま》す急に左瞻右視《とみかうみ》して窺ひつ。
「どう云ふ御用向でございますか。伺ひませう」
「…………」
 露置く百合《ゆり》の花などの仄《ほのか》に風を迎へたる如く、その可疑《うたがはし》き婦人の面《おも
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