いのね」
「そんな事が有るものぢやない! 私だつて……」
「いいえ、可うございます。もう可いの、雅さんの心は解りましたから」
「鈴さん、それは違つてゐるよ。それぢや鈴さんは全《まる》で私の心を酌んではおくれでないのだ」
「それは雅さんの事よ。阿父さんや阿母さんの事をさうして思つて下さる程なら、本人の私の事だつて思つて下さりさうな者ぢやありませんか。雅さんのところへ適《ゆ》くと極《きま》つて、その為に御嫁入道具まで丁《ちやん》と調《こしら》へて置きながら、今更外へ適《ゆか》れますか、雅さんも考へて見て下さいな。阿父さんや阿母さんが不承知だと謂つても、そりや余《あんま》り酷《ひど》いわ、余り勝手だわ! 私は死んでも他《よそ》へは適きはしませんから、可いわ、可いわ、私は可いわ!」
女は身を顫《ふるは》して泣沈めるなるべし。
「そんな事をお言ひだつて、それぢやどう為《せ》うと云ふのです」
「どう為ても可う御座います、私は自分の心で極《き》めてゐますから」
亜《つ》いで男の声は為《せ》ざりしが、間有《しばしあ》りて孰《いづれ》より語り出でしとも分かず、又|一時《ひとしきり》密々《ひそひそ》と
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