ま》る間《ひま》の手弄《てまさぐり》に放ちも遣《や》らぬ下髯《したひげ》の、長く忘れたりし友の今を如何《いか》にと観《み》るに忙《いそがし》かり。
「殆《ほとん》ど一昔と謂うても可《よ》い程になるのぢやから話は沢山ある、けれどもこれより先に聞きたいのは、君は今日《こんにち》でも僕をじや、この荒尾を親友と思うてをるか、どうかと謂ふのじや」
答ふべき人の胸はなほ自在に語るべくもあらず乱れたるなり。
「考へるまではなからう。親友と思うてをるなら、をる、さうなけりや、ないと言ふまでで是《イエス》か否《ノウ》かの一つじや」
「そりや昔は親友であつた」
彼は覚束無《おぼつかな》げに言出《いひいだ》せり。
「さう」
「今はさうぢやあるまい」
「何為《なぜ》にな」
「その後五六年も全く逢はずにゐたのだから、今では親友と謂ふことは出来まい」
「なに五六年|前《ぜん》も一向親友ではありやせんぢやつたではないか」
貫一は目を側《そば》めて彼を訝《いぶか》りつ。
「さうぢやらう、学士になるか、高利貸になるかと云ふ一身の浮沈の場合に、何等の相談も為《せ》んのみか、それなり失踪《しつそう》して了うたのは何処
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