》り辿りて、鰐淵が住へる横町に入《い》りぬ。銃槍《じゆうそう》の忍返《しのびがへし》を打ちたる石塀《いしべい》を溢《あふ》れて一本《ひともと》の梅の咲誇れるを、斜《ななめ》に軒ラムプの照せるがその門《かど》なり。
 彼は殆《ほとん》ど我家に帰り来《きた》れると見ゆる態度にて、※[#「※」は「にんべん+從」、261−2]々《つかつか》と寄りて戸を啓《あ》けんとしたれど、啓かざりければ、かの雍《しとやか》に緩《ゆる》しと謂ふ声して、
「頼みます、はい、頼みます」
 風は※[#「※」は「風+(「森」のように「火」が3つ)」、261−5]々《ひようひよう》と鳴りて過ぎぬ。この声を聞きしお峯は竦《すく》みて立たず。
「貴方、来ましたよ」
「うん、あれか」
 実《げ》に直行も気味好からぬ声とは思へり。小鍋立《こなべだて》せる火鉢《ひばち》の角《かど》に猪口《ちよく》を措《お》き、燈《あかし》を持《も》て来よと婢《をんな》に命じて、玄関に出でけるが、先《ま》づ戸の内より、
「はい何方《どなた》ですな」
「旦那《だんな》はお宅でございませうか」
「居りますが、何方《どなた》で」
 答はあらで、呟《つぶ
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