るなり。彼は大いなる鼻を皺《しわ》めて、
「俺が居ると面倒ぢやから、些《ちよつ》と出て来る。可《え》えやうに言うての、還《かへ》してくれい」
「へえ? そりや困りますよ。貴方《あなた》、私《わたし》だつてそれは困るぢやありませんか」
「まあ可えが」
「可《よ》くはありません、私は困りますよ」
お峯は足摩《あしずり》して迷惑を訴ふるなりけり。
「お前なら居ても可え。さうして、もう還るぢやらうから」
「それぢや貴方還るまでゐらしつて下さいな」
「俺が居ては還らんからじやが。早う行けよ」
さすがに争ひかねてお峯の渋々|佇《たたず》めるを、見も返らで夫は驀地《まつしぐら》に門《かど》を出でぬ。母は直道の勢に怖《おそ》れて先にも増してさぞや苛《さいな》まるるならんと想へば、虎《とら》の尾をも履《ふ》むらんやうに覚えつつ帰り来にけり。唯《と》見れば、直道は手を拱《こまぬ》き、頭《かしら》を低《た》れて、在りけるままに凝然と坐したり。
「もうお中食《ひる》だが、お前何をお上りだ」
彼は身転《みじろぎ》も為《せ》ざるなり。重ねて、
「直道」と呼べば、始めて覚束《おぼつか》なげに顔を挙《あ》げて、
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