強曳《しよぴか》れて漸《やうや》く安堵《あんど》せる間《ま》も無く、青洟垂《あをばなたら》せる女の子を率ゐて、五十|余《あまり》の老夫《おやぢ》のこれも戸惑《とまどひ》して往《ゆ》きつ復《もど》りつせし揚句《あげく》、駅夫に曳《ひか》れて室内に押入れられ、如何《いか》なる罪やあらげなく閉《た》てらるる扉に袂《たもと》を介《はさ》まれて、もしもしと救《すくひ》を呼ぶなど、未《いま》だ都を離れざるにはや旅の哀《あはれ》を見るべし。
 五人一隊の若き紳士等は中等室の片隅《かたすみ》に円居《まどゐ》して、その中に旅行らしき手荷物を控へたるは一人よりあらず、他は皆横浜までとも見ゆる扮装《いでたち》にて、紋付の袷羽織《あはせはおり》を着たるもあれば、精縷《セル》の背広なるもあり、袴《はかま》着けたるが一人、大島紬《おほしまつむぎ》の長羽織と差向へる人のみぞフロックコオトを着て、待合所にて受けし餞別《せんべつ》の瓶《びん》、凾《はこ》などを網棚《あみだな》の上に片附けて、その手を摩払《すりはら》ひつつ窓より首を出《いだ》して、停車場《ステエション》の方《かた》をば、求むるものありげに望見《のぞみみ》
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