の致すところと、自ら恨むよりは無いので、僕は生きながら腐れて、これで果てるのだ。君の親友であつた間貫一は既に亡き者に成つたのだ、とさう想つてくれ給へ。であるから、これは間が言ふのではない。君の親友の或者が君の身を愛《をし》んで忠告するのだとして聴いてくれ給へ。どう云ふ事情か、君が話してくれんから知れんけれど、君の躯は十分自重して、社会に立つて壮《さかん》なる働《はたらき》を作《な》して欲いのだ。君はさうして窮迫してゐるやうだけれど、決して世間から棄てられるやうな君でない事を僕は信ずるのだから、一箇人《いつこじん》として己の為に身を愛《をし》みたまへと謂ふのではなく、国家の為に自重し給へと願ふのだ。君の親友の或者は君がその才を用る為に社会に出やうと為るならば、及ぶ限の助力を為る精神であるのだ」
貫一の面《おもて》は病などの忽《たちま》ち癒《い》えけんやうに輝きつつ、如此《かくのごと》く潔くも麗《うるはし》き辞《ことば》を語れるなり。
「うう、それぢや君は何か、僕のかうして落魄《らくはく》してをるのを見て気毒《きのどく》と思ふのか」
「君が謂ふほどの畜生でもない!」
「其処《そこ》じや、間。世間に貴様のやうな高利貸が在る為に、あつぱれ用《もちゐ》らるべき人才の多くがじや、名を傷《きずつ》け、身を誤られて、社会の外《ほか》に放逐されて空《むなし》く朽つるのじやぞ。国家の為に自重せい、と僕の如き者にでもさう言うてくるるのは忝《かたじけ》ないが、同じ筆法を以つて、君も社会の公益の為にその不正の業を罷《や》めてくれい、と僕は又頼むのじや。今日《こんにち》の人才を滅《ほろぼ》す者は、曰《いは》く色、曰く高利貸ぢやらう。この通り零落《おちぶ》れてをる僕が気毒と思ふなら、君の為に艱《なやま》されてをる人才の多くを一層|不敏《ふびん》と思うて遣れ。
君が愛《ラヴ》に失敗して苦むのもじや、或人が金銭《マネエ》の為に苦むのも、苦むと云ふ点に於ては差異《かはり》は無いぞ。で、僕もかうして窮迫してをる際ぢやから、憂を分つ親友の一人は誠欲いのじや、昔の間貫一のやうな友《フレンド》が有つたらばと思はん事は無い。その友《フレンド》が僕の身を念《おも》うてくれて、社会へ打つて出て壮《さかん》に働け、一臂《いつぴ》の力を仮さうと言うのであつたら、僕は如何《いか》に嬉からう! 世間に最も喜ぶべき者は友《フレンド》、最も悪《にく》むべき者は高利貸ぢや。如何《いか》に高利貸の悪むべきかを知つてをるだけ、僕は益《ますま》す友《フレンド》を懐《おも》ふのじや。その昔の友《フレンド》が今日《こんにち》の高利貸――その悪むべき高利貸! 吾又何をか言はんじや」
彼は口を閉ぢて、貫一を疾視せり。
「段々の君の忠告、僕は難有《ありがた》い。猶自分にも篤と考へて、この腐れた躯《からだ》が元の通潔白な者に成り得られるなら、それに越した幸は無いのだ。君もまた自愛してくれ給へ。僕は君には棄てられても、君の大いに用られるのを見たいのだ。又必ず大いに用られなければならんその人が、さうして不遇で居るのは、残念であるよりは僕は悲い。そんなに念《おも》つてもゐるのだから一遍君の処を訪ねさしてくれ給へ。何処《どこ》に今居るかね」
「まあ、高利貸などは来て貰《もら》はん方が可い」
「その日は友《フレンド》として訪ねるのだ」
「高利貸に友《フレンド》は持たんものな」
雍《しとや》かに紙門《ふすま》を押啓《おしひら》きて出来《いできた》れるを、誰《たれ》かと見れば満枝なり。彼|如何《いか》なれば不躾《ぶしつけ》にもこの席には顕《あらは》れけん、と打駭《うちおどろ》ける主《あるじ》よりも、荒尾が心の中こそ更に匹《たぐ》ふべくもあらざるなりけれ。いでや、彼は窘《くるし》みてその長き髯《ひげ》をば痛《したたか》に拈《ひね》りつ。されど狼狽《うろた》へたりと見られんは口惜《くちを》しとやうに、遽《にはか》にその手を胸高《むなたか》に拱《こまぬ》きて、動かざること山の如しと打控《うちひか》へたる様《さま》も、自《おのづか》らわざとらしくて、また見好《みよ》げにはあらざりき。
満枝は先《ま》づ主《あるじ》に挨拶《あいさつ》して、さて荒尾に向ひては一際《ひときは》礼を重く、しかも躬《みづから》は手の動き、目の視《み》るまで、専《もつぱ》ら貴婦人の如く振舞ひつつ、笑《ゑ》むともあらず面《おもて》を和《やはら》げて姑《しばら》く辞《ことば》を出《いだ》さず。荒尾はこの際なかなか黙するに堪《た》へずして、
「これは不思議な所で! 成程間とは御懇意かな」
「君はどうして此方《こちら》を識《し》つてゐるのだ」
左瞻右視《とみかうみ》して貫一は呆《あき》るるのみなり。
「そりや少し識つてをる。然し、長居はお邪魔ぢやらう、大
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