と共に偉大なる歓喜を知る心を持つ、破れ易い船のような人民――」と、皇帝は心のうちで叫んだ時、心細さが彼の胸を貫いた。
かくの如く、生と死との両極のあいだにあって反省し、動揺しているうちに、皇帝は次第に生命を回復して来ると、苦痛と歓喜との人生のうちに、空虚なる暗黒と無限の恐怖を防ぐだけの力のある楯のあることに気が付いた。
「ラザルス。お前はわしを殺さなかったな。しかしわしはお前を殺してやろう。去れ。」と、皇帝は断乎として言った。
その夕方、神聖なる皇帝アウガスタスは、いつもになく愉快に食事を取った。しかも時々に手を突っ張ったままで、火の如くに輝いている眼がどんよりと陰って来た。それは彼の足もとに恐怖の波の動くのを感じたからであった。打ち負かされたが、しかも破滅することなく、永遠に時の来たるのを待っている「恐怖」は、皇帝の一生を通じて一つの黒い影――すなわち死のごとくに彼のそばに立っていて、昼間は人生の喜怒哀楽に打ち負かされて姿を見せなかったが、夜になると常に現われた。
次の日、絞首役人は熱鉄でラザルスの両眼をえぐり取って、彼を故国へ追い帰した。神聖なる皇帝アウガスタスも、さすがにラ
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