になる前に、まずお前に逢い、お前と話してみたいのだ。」
 彼は内心恐れていないでもなかったが、いかにも皇帝らしい口ぶりでこう言い足した。それからラザルスに近寄って、熱心に彼の顔や奇妙な礼服などを調べてみた。彼は鋭い眼力を持っていたにも拘らず、ラザルスの変装に騙されてしまった。
「ほう、お前は別に物凄いような顔をしていないではないか。好いお爺さんだ。もしも恐怖というものがこんなに愉快な、むしろ尊敬すべき風采を具えているならば、われわれに取っては却って悪い事だとも言える。さて、話そうではないか。」
 アウガスタスは座に着くと、言葉よりも眼をもってラザルスにむかいながら問答を始めた。
「なぜお前はここへはいって来た時に、わしに挨拶をしなかったのだ。」
「わたしはその必要がないと思いましたからです。」と、ラザルスは平気で答えた。
「お前はクリスト教徒か。」
「いいえ。」
 アウガスタスはさこそと言ったようにうなずいた。
「よし、よし。わしもクリスト教徒は嫌いだ。かれらは人生の樹に実がまだいっぱいに生《な》らないうちにその樹をゆすって、四方八方に撒き散らしている。ところで、お前はどういう人間であ
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