彩筆をもって描くことにした。
ラザルスは例の無関心で、大勢のなすがままに任せていたので、たちまちにして如何にも好く似合った頑丈な、孫の大勢ありそうな好々爺《こうこうや》に変わってしまった。ついこの間まで糸を紡《つむ》ぎながら浮かべていた微笑が、今もその口のほとりに残っているばかりか、その眼のどこかには年寄り独特の穏かさが隠れているように見えた。しかもかれらは婚礼の衣裳までも着換えさせようとはしなかった。又、この世の人間と未知のあの世とを見詰めている、二つの陰鬱な物凄い、鏡のような彼の両眼までも取り換えることは出来なかったのである。
六
ラザルスは宮殿の崇高なるにも、心を動かされなかった。彼に取っては荒野に近い崩れ家も、善美を尽くした石造の宮殿もまったく同様であったので、相変わらず無関心に進み入った。彼の足の下では堅い大理石の床も荒野の砂にひとしく、彼の眼には華美な宮廷服を身にまとった傲慢な人々も、すべて空虚な空気に過ぎなかった。ラザルスがそばを通ると、誰もその顔を正視する者もなかったが、その重い足音がまったく聞こえなくなると、かれらは宮殿の奥深くへだんだんに消えてゆくやや前
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