いた線は一つもなく、しかも何か新らしい、変わった観念の暗示をあたえていた。細い曲がった一本の小枝、と言うよりはむしろ小枝に似たある不格好な細長い物体の上に、一人の――まるで形式を無視した、醜《みにく》い盲人が斜めに身を支えている。その人物たるや、まったく歪《ゆが》んだ、なにかの塊《かたまり》を引き延ばしたとも、或いはたがいに離れようとして徒らに力なくもがいている粗野な断片の集まりとも見えた。唯どう考えても偶然としか思えないのは、この粗野な断片の一つのもとに、一羽の蝶が真に迫って彫ってあって、その透き通るような翼を持った快活な愛らしさ、鋭敏さ、美しさは、まさに飛躍せんとする抑え難き本能に顫えているようであった。
「この見事な蝶はなんのためなんだね、アウレリウス。」と、誰かが躊躇しながら言った。
「おれは知らない。」と、アウレリウスは答えた。
 結局、アウレリウスから本心を聞かされないので、彼を一番愛していた友達の一人が断乎として言った。
「これは醜悪だよ、君。壊してしまわなければいかん。槌を貸したまえ。」
 その友達は槌でふた撃ち、この怪奇なる盲人を微塵に砕いてしまって、生きているような
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