「見ろよ。あすこへ行く連中は、ラザルスにお眼を止められたくらいだから、おれ達よりも上手《うわて》の馬鹿者に違いないぜ。」
 かれらは気の毒そうに首を振りながら、腕をあげて、帰る人々に挨拶した。
 ラザルスの家へは、大胆不敵の勇士が物凄い武器を持ったり、苦労を知らない青年たちが笑ったり歌を唄ったりして来た。笏杖《しゃくじょう》を持った僧侶や、金をじゃら付かせている忙がしそうな商人たちも来た。しかもみな帰る時にはまるで違った人のようになっていた。それらの人たちの心には一様に恐ろしい影が飛びかかって来て、見馴れた古い世界に一つの新しい現象をあたえた。
 なおラザルスと話してみたいと思っていた人たちは、こう言って自己の感想を説明していた。
「すべて手に触れ、眼に見える物体は漸次に空虚な、軽い、透明なものに化するもので、謂わば夜の闇に光る影のようなものである。この全宇宙を支持する偉大なる暗黒は、太陽や、月や、星によって駆逐さるることなく、一つの永遠の墓衣のように地球を包み、一人の母のごとくに地球を抱き締めているのである。
 その暗黒がすべての物体、鉄や石の中までも沁み込むと、すべての物体の分
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