底に響くんだ。そして私の魂を搾るんだ。私は其処に身を投げ出して泣いた。両手で胸を緊と押え乍ら身を悶えた。ほんとにどうにも出来なかったのだ。
やがて私は起き上った。そして涙を流し乍らその手文庫を床の間の中央に据えた。それを眺めたまま私は暫くぼんやりと何かを考えた。
――私はなんにも知らなかったんだ。そしてやはりまだこの室にじっとしている。今私の胸のうちにひそかに囁きつつ遠い空から下りて来るものがある。私は静にしていなければいけないのである。そしてじっと祈るような心で居なければいけないのである。
底本:「豊島与志雄著作集 第一巻(小説1[#「1」はローマ数字、1−13−21])」未来社
1967(昭和42)年6月20日第1刷発行
初出:「新思潮」
1914(大正3)年3月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全15ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング