重荷もそのうちにあれ。凡てのものをじっと支えて自らの足で立つ時、私は信ずるのだ、凡てがよくなるであろう! その信念が私を真直に進ませるのだ。一度動き出したる身は止まる術を知らないのだ。其処に神の意志が働いているのだ。後ろの眼が閉されて、前の眼が開かれているのだ。
はて知らぬ遠き旅に上った身は――
ただ真直に進むのだ。
新らしい力が地上に動いている。そして輝いた祝福が空に在る。若草の芽が萠え出で、樹の梢が伸びている。小鳥が空に昇っている。皆真直に上へ向って動いているのだ。そして大空に太陽が輝いているのだ。
首垂れて、路傍を流るる水に映して、大空の姿を見ないのがいい。小さな憐れみの食のために手を差出さないがいい。顔を挙げて、自らの眼を以て、大空の姿を仰ぐがいいのだ。そして自らの手を以て、自らの生命を培うがいいのだ。はてなき道は遠くとも、彼方の地平線から大きな誘惑が私を招いているではないか。再会する者、獲得する者、肯定する者の歓喜が、其処に大きな手を拡げている。それが私の疲れた足に力を与えるのだ。招かるるままに、自らの足で自らの生命と重荷とを支えて歩くがいい。神の意志に依る誘惑は常に善良であらねばならないのだ。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2005年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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