を見に来る人もありました。手なえの人がそれをなでていますと、手が自由に動くようになって、病気がなおってしまいました。
 だんだん評判になって、あちこちから、見に来る人がふえました。商売繁昌を祈りに来る人もあり、病気平癒を祈りに来る人もあり、金や品物を供えてゆきました。
 漁夫はもう、少しも働かずに、宝物の番ばかりするようになりました。するうちに、漁夫はふと心配になりました。
「この宝物が、こんなに評判になってくると、これは危いぞ。悪者に盗まれるかも知れない。」
 心配がひどくなってきまして、いろいろ考えた末、宝物をしばらく竜宮に預けておこうときめました。竜宮に預けておけば、悪者に盗まれる心配はありません。
 漁夫は宝物を背負って、竜宮へ出かけました。沖合にぽつりと聳えてる岩山の下に、竜宮があると、言い伝えられていました。漁夫はその岩山に登り、真逆様に竜宮の方へ飛び込みました。
 それきり、いつまでたっても、漁夫はもう帰って来ませんでした。
 この、漁夫が宝物を背負って海に飛び込んだという岩山が、瀬戸内海にある。春と秋との彼岸中の夜、そこの深海に真黒な光りものが見えることが。あるそうだ。
 この話は少し教訓的だが、いくらかとぼけてもいる。それだけにまた、解釈の仕方もいろいろあるわけだ。各自、身にひき比べて考えてみるがよかろう。然し、教訓的なものは、話自体としては面白くもなんともない。小説や物語についても同じことだ。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
※「亀」と「龜」の混在は、底本通りです。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング