の茂みをなしています。張家の自慢の木でありました。それを誉められて、張一滄が大きな鼻をうごめかしていますと、背の高い男はほーっと溜息をついていいました。
「珍らしい大きな木だが、可哀そうなことをしましたね。」
「ほう、可哀そうなこととは、どういうことかね。」
「あんなに、蓑虫がたくさんついています。」
「ああ、あの虫には、私も困っているのだ。何かよい工夫はあるまいか。」
「私に任せて下されば、すっかり取り除いてあげましょう。」
「それが、君には出来るかね。」
「出来ます。」
「うむ。君は何という者かね。」
「朱文という者です。」
 そういうわけで、この背の高い朱文が張家に仕えることになったそうであります。その時彼は、三十歳だったといわれています。
 朱文は張家の一房を与えられ、自ら奥地へ行って秘密な鉱石の粉末を求めて来、繩梯子を拵えて、楠の蓑虫駆除にかかり、遂にそれをやりとげてしまったそうでありますが、その詳細なことは分りかねます。ただ、これまで蓑虫に食い荒されていた楠の葉が、青々と艶々と茂るようになったのを、やがて、町の人たちは見て取りました。
 ところで、楠の方の仕事に、朱文は一日
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