二言答え返した。彼女はすぐにつっ込んできた、「子供の風邪がひどくなったら、あなたが責任を負って下さるのね!」私は一寸あわてた。「でたらめなことを云うな、」と投げやりの調子で答えた。彼女は私の顔をじっと見た。「あなたは、この頃ちっとも子供を可愛がりなさらないのね、」と彼女は云った。云われてみると多少は当っていた。子供の側にくっついてることが、私には次第に少くなっていたのだ。私は話の方向を変えるために、別のことを云った。「お前は、ただ子供をだけ愛してる。それが本当の愛かも知れないよ。然し僕は……子供を愛する時は、お前をも愛してる時なんだ。」云い方が悪かったのだ。彼女はすぐに結論して私に迫った。「では、あなたはこの頃私を愛して下さらないのね。」彼女の云う所は、いつになく論理正しく鋭利だった。私はたじたじとなった。癪だった。「お前はどうだ、」と反問してやった。「私のことを云ってるのではありません、」と彼女は私を撃退した。「お前は子供だけ育てれば、それでいいと思ってるんだろう、」と私は云った。「あなたは私に子供だけを与えておけば、それでいいと思っていらっしゃるんでしょう、」と彼女は云った。議論は
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