神と珠とを一緒に生捕る工夫《くふう》をしました。大勢《おおぜい》の家来《けらい》達に言いつけて、丈夫《じょうぶ》な縄《なわ》の大きな網をこしらえさせ、これを庭の大木のまわりに張らせ、網につけた綱を一本引けば、網が大木の根下にすっかりかぶさってしまうようにしました。
「こうしておけばうまくゆくにちがいない」
そして長者は、入道雲が空に出て来て雷が鳴り出す日には、庭の隅《すみ》に飛び出して、網の綱を握りしめ、雷《らい》の神が大木に落ちるのを待ち受けました。
二
ところが、長者《ちょうじゃ》がいくら待ち受けていても、雷の神は長者の庭の木に落ちませんでした。
というわけは、雷の神は空を鳴りはためきながら、どこに落ちてやろうかと見下《みおろ》しているうちに、長者の庭の木に仕掛《しか》けがしてあるのを気づいてしまったのです。
「これはうかつには落ちられないぞ」
そしてますます勢い強く鳴りはためいて、長者の家の近くに何度も落ちてみせましたが、仕掛けのしてある木には一度も落ちませんでした。
長者は待ちくたびれてきました。近くには何度も雷の神が落ちるのに、自分の庭の木にだけ落ちないものですから、なおさらじれだしました。
「どうすれば庭の木に雷の神が落ちるだろう」
そこで長者は、何か雷の神の好きなもので招《まね》き落してやろうと考えました。
その頃、ほど近い都に、名高い物知《ものし》りが住んでいました。長者はその物知りのところへ使いをやって、雷の神の好きなものをたずねさせました。
やがて、使いの者が帰って来て、都の物知りから聞いてきたところでは、雷の神はぴかぴか光った赤いものが好きだということでした。ぴかぴか光った赤いものを見せると、雷の神がすぐに落ちてくるから危ない、と物知りは言ったそうです。
「なに、危ないことはない。仕掛《しか》けがしてあるのだから」
けれども、そのぴかぴか光った赤いものというのは、一体何のことだろう、と長者《ちょうじゃ》は考えました。
「はて……」
その時ふと思いついて、長者ははたと膝《ひざ》を叩きました。また家来《けらい》達に言いつけて、大きな日の丸の扇《おうぎ》をこしらえさせました。畳《たたみ》二枚ほどもある大きな扇で、まん中に大きく金の日の丸を書いたものでした。それで雷《らい》の神を招き落とそうというのです。
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