を得るのは、海の沖合に在る時ばかりではなく、このような大平野に在る時もそうである。
 そしてこの平野には、至って河が少い。河流は始終泥土を運んできて、いつしか水が涸れれば、河床は高く、橋の必要はなく、道路はじかに河床を通っている。雨期に大雨があれば、水は地面を掘って自由な通路を作り、やがて平野の上に氾濫する。些少の低地や温地帯[#「温地帯」はママ]には、長く停滞して湖水の面影をなす。
 こうした河北平野に散在してる村落は、人の住宅というよりも、人の窖とか巣とかいう観がある。少しまとまった村落には、土塀をめぐらしてあるが、それは流賊を防ぐためもあろうし、洪水を防ぐためは更に多かろう。泥と煉瓦とで出来てる家は、入口が狭く、窓は漸く外光を取入れるだけのものである。幾重にも壁があり戸口があって、先ず、日本の普通の住宅の板塀や垣根や袖垣や壁などを、全部土塀にしたものと思えばよろしい。そして藁屋根の上には草が生え、瓦屋根の上には埃がたまり、村落が擁する僅かな木立も、一杯埃をあびている。風のある紅塵の日には、凡てのものが息をひそめる。それらの村落を、例えば汽車の窓などから眺むれば、塵埃をかぶって地面
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