云わしてみたいから、神話に関する先生の原稿を是非頂きたい、と云うのです。僕が神話の研究者であることを、何処かで聞いていたとみえます。僕は承知するつもりで期日を聞きますと、一週間以内に是非と云うじゃありませんか。而もその一週間は、僕は学校の方の答案調べやなんかでとても隙がありません。
「それじゃお話して下さいませんかしら。私書きますから。」
いつ? と尋ねると、只今、と云うんです。
僕は苦笑しながら、兎に角話を初めました。フーシェンが山へ行って、恐ろしい姿のものを見て、石を掴んで投げつけると、その石が岩に当って火花を発し、その火が広い野原中に拡った、それがペルシャの拝火教のそもそもの火であるというようなことや、印度の火神アグニーは、枯木の材中に生命を得て来て、生れ出るや否や、自分の親である木材を食い尽そうとする、などというような、神話の起原と自然現象との分り易い関係の話を、少しばかりしてやりました。彼女は談話筆記は初めてだと云いながら、わりにすらすらと書き取っていましたが、一寸つかえると、僕が先へ話し進めるのをそのままにして、一言の断りもしないで、じっと僕の顔を見てるじゃありませんか
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