ら無くなってしまってる。それを、何とも云わないで、片山さんは今でも毎月僕に生活費の不足を出してくれてるんだ。そして僕のために非常に奔走して、僕には勿体ないほどのあの九州の口を探してくれた。いくら僕が恩知らずだって、はっきりした理由もないのに、断れるものか。」
云ってるうちに彼は捨鉢な気持になったのだった。前に話したことはあるけれど、此処に持ち出さずともいい豚の女[#「豚の女」に傍点]のことまで云い出して、自ら自分を鞭打ちたかったのである。彼はなお云い続けた。
「それは片山さんだって、好意が……親のような好意があるなら、僕を九州まで追いやらずともいいさ。然し僕はもう片山さんの心をあれこれと詮議立てしたくはない。何もかも黙って受けようよ。僕のような者には、全く見ず知らずの新しい世界にでもはいらなけりゃ、生活が立て直りはしないんだからね。仕事を見付け出してやることが、僕を救う途だそうだ。そうかも知れない。仕事さえあれば、朝から晩まで馬車馬のように追い立てられさえすれば、それで僕の生活が立て直るんだろうよ。其他のものは何にも……。」
昌作は今にも自分が泣き出しそうになってるのを感じた。と一
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