って来た姿を、頭から足先までじろじろ見廻した。
「佐伯さん、まあ、あなたは!」
 達子にそう云われて初めて、自分が真蒼な顔をして泥に汚れてることを、彼は知った。
「私はやはり九州の炭坑へ行きます。坑《あな》の中へはいってでも働きます。」
 禎輔が喫驚して、惘然と眼と口とをうち開いたのに、昌作は気付かなかった。彼は不覚にもまた涙をこぼしながら、冷く硬ばった額を押えて其処に坐った。



底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説2[#「2」はローマ数字、1−13−22])」未来社
   1965(昭和40)年12月15日第1刷発行
※「萌」と「萠」の混在は底本通りです。
入力:tatsuki
校正:伊藤時也
2006年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全176ページ中176ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング