きがあった。
「そうでなけりゃ……、」と昌作は漸く落着いて云った、「……喧嘩でもなすったんですか。」
「まあ!」達子はもう我慢出来ないという風に早口で云い進んだ。「あなたの方が今日はどうかしてるのよ。いやにひねくれて、夫婦喧嘩をしたかなんて、そんなことを聞く人があるものですか。そりゃあ片山だって、あなたが余りあやふやだから、少しは厭気がさすでしょうよ。けれど怒ってなんかいませんわ。また喧嘩なんかもしやしませんわ。」
「いえ私はそんな……。云い方が悪かったら御免下さい。ただ何だか片山さんの様子がいつもと違ってるようだったものですから……。」
「誰にだって心配ごとがある時もあるものよ。」と達子は心を和らげて云った。「会社の方に何かごたごたがあって、それに頭を使いすぎなすってるらしいのよ。夜中に眼を覚したり、朝早く起き上ったりなさることが、時々あるものですから、私も少し心配になって聞いてみると、いくらか神経衰弱らしいと云って、自分を憐れむように微笑んでいなさるんでしょう。自分で微笑みを洩らしてる間は、神経衰弱なんて大したことじゃないわよ……。けれど、兎に角そういう際ですから、あなたも余り気を
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