と恋人とを一緒にしたような気持で……。え、君はなぜ泣くんだい?」
昌作は禎輔の言葉をよく聞いていなかった。ただ何故ともなく胸が迫って来て、いつしか眼から涙がこぼれ落ちたのだった。彼は禎輔に注意されて初めて我に返ったかのように、そして自分自身を恥じるかのように、葡萄酒の杯の方へ手を差伸ばした。
禎輔は彼の様子を暫く見守っていたが、やがてふいに立上って室の中を歩きだした。そして卓子のまわりを一巡してきてから、また元の所へ腰掛けて、何か嫌なものでも吐き出すように、口早に話し初めた。
「僕は君に要点だけを一息に云ってしまうことにしよう。判断は君に任せるよ。……君が盛岡であんなことになって、東京に帰ってきてからものらくらしてるのを見て、僕達は影で可なり心配したものなんだ。なぜって、僕達は間接に君の保護者みたいな地位に立ってるのだからね。そして君の心を察して、初めは何とも云わないで放っておいたが、もうかれこれ二年にもなるのに、君がまだぼんやりしてるものだから、達子が真先に気を揉み初めたのだ。そして君自身も、今に生活をよくしてみせると、口でも云い、心でも願っていたろう。それに僕は、君に一番いけな
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