嫌いだと平素彼が云ってた言葉を忘れてしまって、どこかのハイカラな女学生風の令嬢だと勝手にきめてる、そのことに就いてだった。そしてそのことから、彼の気分は妙に沈んできて、ただ自分一人の心を守りたいという気になった。
「ねえ、もうこうなったら、仕方ないから、何もかも仰言いよ。……何処の何という人? 私出来るだけのことはしてあげるわ。」
「もう暫く何にも聞かないでおいて下さい。」と昌作は眼を伏せたまま云った。「私はまだ何にも云いたくないんです。あなたの仰言るような、そんな普通の恋じゃないんです。恋……といっていいかどうかも分りません。何だかこう……私自身が駄目になってしまいそうなんです。いろんなことがごたごたしていて、とんでもないことになりそうです。……私はもう少し考えてみます。考えさして下さい。私の心が……事情がはっきりしてきたら、すっかりお話します。是非お力をかりなければならなくなるかも知れません。けれど、今は、今の所は、自分一人だけのことにしておきたいんです。……馬鹿げた結果になるかも知れません。下らないつまらないこと、になるかも知れません。……まるで分らないんです。はっきりしてからお
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