…。」
昌作はしまいまで云いきれなかった。達子の眼に突然厳しい光りが現われたのだった。そして昌作は、自分の云おうとしてることが相手にどう響くかを感じた。達子が腹を立てるのは当然だった。それは全く忘恩の言葉だった。然し彼に云わせると、これまであんなに寛大と温情とを以て自分を通してくれた禎輔が、遠い九州の炭坑なんかに自分を追いやろうとすることこそ、最も不可解なのであった。どうせ就職口を探してくれるのなら、東京もしくは何処かに奔走してくれそうなものだった。九州の炭坑とは、全く夢にも思いがけないことだった。それとも、そういう処でなければ昌作の生活が真面目になりはしないというのなら……それまでのことだけれど。然しそれならそれと、なぜ禎輔は明かに云ってくれなかったのだろう。信念も方向もないぐうたらな生活を送ってる昌作にとっては、九州の炭坑と云えば、全く流刑に等しいと感ぜられるのだった。そのことを、明敏な禎輔が見落す筈はなかった。「追っ払おうとしてるのだ!」としか昌作には思われなかった。そしてそれが、今迄凡てを許してくれていた禎輔であるだけに、昌作には不可解に思えるのだった。本当の心を聞きたい、その上で忍ぶべきなら忍んで九州へ行きたい、というのが彼の希望の凡てだった。
達子はふいに叫んだ。
「あなたはそんなに心まで曲ったんですか!」
率直な達子に対しては、昌作は何とも返辞のしようがなかった。
「私あなたをそんな人だとは思わなかった。」と達子は云い続けた。「私達があなたのためを思ってやってることを、あなたは、厄介払いをする気で九州なんかへ追いやるのだと思ってるのでしょう。いえそうですわ。あなたには人の好意なんてものは分らないんです。……これでも私達は、あなたの唯一の味方と思っていたんですよ。あなたが珈琲《カフェー》に入りびたったり、道楽をしたり、ぐずぐず日を送ったりしているのを、そして牛込の伯父さんにまで見放されたのを……それを私達は、始終好意の眼で見てきてあげたつもりですわ。そしてあなたが自分で云ってたように、いつかはあなたの生活が立て直るに違いないと、ほんとに信じていたんですわ。それで片山は東京で方々就職口を内々尋ねて……働くことによってしか生活はよくならない、佐伯君にとっては仕事を見出すことが第一だ、と片山は云ってるのです。私もそう思っています。で、東京にいい口がないの
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