っぽい薄ら明りがその全身を包んでいた。けれど、今にも次第に暗くなってきそうだった。眼に見えるようにじりじりと秋の日脚が傾いていった。冷々とした風が少し吹いて、さらさらと草の葉のそよぐ音がした。木和田五重五郎[#「木和田五重五郎」に傍点]の位牌が、野中の十字架のように思われた。雑草の中に一つぽつりと、灰白色の円いものが見えた。野晒しの髑髏だった。その上を冷たい風が掠めていった。彼は堪らなく淋しい気持になって、我知らず口の中で繰返した。――野ざらしを心に風のしむ身かな[#「野ざらしを心に風のしむ身かな」に傍点]。――それをいくら止めようとしても、やはり機械的に繰返されるのだった。一生懸命に止めようと努力すると、気が遠くなって野原の真中に倒れた。胸がまるで空洞になって、風がさっさっと吹き過ぎた。自分の魂が髑髏のようになって、胸の中に……野の中に転っていた。晩秋の日はずんずん傾いていった。大きな影が徐々に落ちてきた。風が止んで非常に静かになった。彼は立ち上ってまた歩きだした。胸がどきどきして、頭がかっと熱《ほて》っていた。眼が眩むようだった。細目に見開いてみると、すぐ前を厚い白壁が遮っていた。長年の風雨に曝されて、薄黒い汚点《しみ》が這い廻ってる、汚い剥げかかった壁だった。その上を夕暮の影が蔽っていた。影の此方に四角に窓硝子があって、ぼんやり人影が写っていた。それが堪らなく淋しかった。彼は眼を外らした。表に面した窓から、小さな銀杏の並木の梢が見えていて、散り残った黄色い葉が五六枚、街路の物音に震えていた。
彼が気がついてみると、沢子と春子とは、先程から話を途切らして、彼の顔をじっと見てたらしかった。彼は何だか顔が挙げられなくて、首垂れながら太く溜息をついた。
「熱でもおありなさるんじゃないの?」と春子が云った。
彼は無意識に手を額へやってみた。額が熱くなって汗ばんでるのを感じた。
「なに、煖炉の火気を少し受けすぎたんだろう。何でもないよ。」
「でも変に苦しそうなお顔でしたよ。」
「一寸夢をみたようだった……。」
「夢?」
「と云って悪ければ……いややはり夢だよ。」
「おかしいですわね、眼をあいてて夢をみるなんて。」
「白日夢ってね。」
「あら……ひどいわ。人が本気で心配してるのに冗談なんか云って。」
然し彼は、まだ先刻の幻想から本当には醒めきれないでいた。春子と言葉
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