いよ。まるで違った別なものだよ。」
「それでどうなんだい。」
「それでいて、君はいつも、ひとも自分と同じものだと思ってるんだろう。」
「思ってやしないよ。」
「でもそういう考え方をしているよ。だからお父さんのことだって、君には分ってやしないんだ。僕のことだって分ってやしないよ。」
「そりゃあ、すっかりは分らないよ。」
「だから、あんまりへんなことを云うなよ。」
チビは耳をかいて、口を噤んだ。それから媚びるように云った。
「こんど、東京に帰ったら、霧の晩に歩いてみないかい。僕と一緒にだよ。木の葉に露の雫がたまってる時がいいね。そしたら、僕はどんな高いところにでも飛びあがって、みんなはらい落して、いくらでも浴せてやるよ。」
「うん、歩こう。」
正夫はただそう答えて、ぼんやり大空の雲を眺めた。
チビも黙りこんで、雲を眺めた。雲は空高く速く流れていた。正夫はふいに立上っていった。
「少し寒くなった。馳けてみようよ。」
二人は草原の中を走りだした。
底本:「豊島与志雄著作集 第三巻(小説3[#「3」はローマ数字、1−13−23])」未来社
1966(昭和41)年8月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年5月9日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全5ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング