ていまして、自然に静まるなどということはとてもなさそうでした。試みに黄金《おうごん》の卵を持っていって写してみても、早いざわめいた流れですから、少しも写りはしませんでした。それで王子もしまいには諦めて、番人を置いて谷川を見張らせました。けれどいつまでたってもその水が自然に静まり返ることはありませんでした。
王子はその方はもう思い切って、今度は卵がかえるのを待ちました。銀の籠《かご》を国王から作ってもらい、その中に香木《こうぼく》の屑《くず》で作った巣を入れ巣の中に黄金《おうごん》の卵《たまご》を置いておきました。そして朝と晩とには必ず中をのぞいてみました。けれどもやはりいつまでたっても元の卵のままでした。
そのうちに国王は亡《な》くなり、王子が国王の位に即き、次いで自分もまた年をとって亡くなり、それから幾人《いくにん》もの王が代々後を継《つ》いで、幾千年もたちましたが、城の前の谷川の水が静まることのないように、黄金の卵がかえることもありませんでした。またその卵をかえすことを知ってる者もいませんでした。今になおその卵は、夢の卵と言われて、銀の籠の中の香木の巣の中にはいっています。
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