問と同じように、確かな本当のことであると思われました。ただ、国王から言われた通り眼がさめると消えてなくなるのだけが不満でした。もし、眼がさめてからも夢が消えなかったら……! 夢を捕《つかま》えることが出来たなら……!
「そうだ、夢を捕えてやろう」と王子は考えました。
ところがどうして夢を捕えてよいか、いくら考えてもわかりませんでした。それで王子は学者達に、夢を捕える仕方《しかた》をたずねました。けれどいくら学者達が知恵をしぼっても、そんなことはとても考え出されませんでした。
「夢を捕えることばかりは、私共の知恵も及びませぬ」と学者達は答えました。
それでも王子は力を落としませんでした。この上は自分一人で夢を捕《つかま》えてやろうと決心しました。夜寝る時、一生懸命にその覚悟をしておいて、それから眠りました。そして夢の中にいろんなものが出て来ると、はっと眼を覚ましながら両手を差し出しました。けれどその時には、もう夢は消えてしまっていました。王子は口惜《くや》しくてたまりませんでした。どうかして夢を捕えたいと思って、両手を布団《ふとん》の外に出して寝ましたし、しまいには、網や籠《かご》なんかを手に握って寝ました。そして夢をみてから、はっと眼がさめるかさめないうちに、網や籠を夢の上に押っかぶせようとすると、もう夢は消えてしまっていました。何度やっても同じことでした。
「どうしたらいいかしら?」と王子は昼も夜も、そのことばかりを考えていました。
ある夜、王子は疲れきった悲しい心で、いつもより深く眠ってしまいました。すると間もなく、また夢をみました。……紫色の雲が遠くから飛んできます。それをじっと見つめていると、もやもやとしたその雲が、自分のすぐ前までやって来て、その中から、身体中まっ白な長い毛の生えた老人の姿が、ぼんやり浮かび出ました。老人はにこにこ笑いながら、王子に向かって言いました。
「王子、あなたがいくら骨折《ほねお》っても、夢を捕えることは出来ません。けれど、あなたがあまり熱心なのに免《めん》じて、夢の精を一つ見せてあげましょう。私はこの城の後ろの森の王です。これからすぐに私をたずねておいでなさい。森の奥の奥に大きな樫《かし》の木があります。それが私です。私の懐《ふところ》に夢の精が一ついます。みごと私をたずねて来ましたら、その夢の精と一日遊ばしてあげましょう」
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