代りに、あなたは高木君の方へ炬燵半分ほど体をずらせ、その手を執って、懐から肩へと持ちこんでしまいました。高木君もだいぶ酔ってはいましたが、全く切なそうな顔付で、そして息をこらし、ぼってりしたあなたの胸から肩へ掌を押しあてながら、とうとう炬燵布団の上に顔を押しあててしまいました。それから、静に手を引きましたよ。
「薄情ね、少し揉んでよ。」
 高木君は眼をつぶって、あなたの肩の肌を揉むまねをしましたが、やがてまた手を引っこめましたよ。
 あなたの肩は殆んど凝っていませんでした。だが、あなたの体は汗ばんでいましたね。
 ……炬燵が熱かった……。
 ばかな口実を設けてはいけません。あなたの身内がほてっていたからでしょう。それはとにかく、あなたは拙劣でしたよ。ただじっと相手の手を握りしめるなり、或はいきなり相手の首にかじりつくなり、やり方はいくらもあったでしょう。それを、血圧が高そうだとか、肩が凝るようだとか言って、相手の手を懐に引き入れるなんて、ばかばかしいことをしたものですね。
 あなたは雀の恋愛をじっと眺めました。さかりのついた猫の鳴き声に耳を傾けました。それならば更に、庭の隅のあの古池で
前へ 次へ
全22ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング