うな、何か不満なことがあるなら、はっきり云ってごらんなさい。浜地さんのことについて、何か腑に落ちないことがあったら……。今のうちなら、どうにでもなるんですから……。そりゃあ浜地さんのことはお前が一番よく知ってるのだから、はっきり理由の立つことなら、わたし達も無理に話を進めようとするのではありませんよ。だけど、昨晩のような、嘘だか本当だか分らない、まるで酔払いの寝言みたいんじゃあ、取り上げるわけにはいきませんからね。」
そんな風に云われると、僕はもう参ってしまった。母の気持は変に真剣に動いていた。初め僕は、兄との喧嘩の方ばかりを気にしていたが、母はそんなことはけろりと忘れたかのように、浜地のことばかりを、真面目に考えてるらしかった。
僕は頭をこつこつ叩きながら云った。
「酔払ってたんですよ、昨晩は……。何だかでたらめに饒舌ってるうちになお酔払ってきて……。」そこで僕はちゃんと坐り直した。「いえ、賛成です。浜地と敏子との話には大賛成ですよ。」
「だって、お前は昨晩、何と云いました。」
「さあ、何といったか……だがもういいんです。僕は良縁だと思っています。」
そうした僕の云い方が、母をなお不安にならしたらしい。母は何かを見窮めようとするような眼付で、僕の顔をなおまじまじと見入ってきた。
そのため、僕は碌に酒も喉に通らなかった。
敏子
僕はお前と浜地との結婚に反対じゃなかった。どちらかと云えば賛成の方だった。ひどく冷淡な云い方だけれど、それ以上は僕には云えない。
それをどうして僕があの晩、浜地の悪口を云い出したかと云えば、実は兄に対する憤懣からだった。
お前も知ってる通り、僕は兄を余り好かない。兄も僕を好かないらしい。僕達二人は性情や嗜好まで随分違っている。
その二人が、遇然一緒に家で飯を食うことになった。兄が結婚して別居してからは、そういうことが稀だったので、僕は母に御馳走さしてやった。というのは口実で、久しぶりに家で酔ってもみたかったからさ。
そして初のうちはうまくいった。ところが、次第に、お前が静子さんと出かけた後のことだが、僕の気持は妙に苛らついてきた。
兄はだいぶ辛棒して僕の相手をしてたらしかったが、三四本目の銚子から、先に飯を食い初めた。その時話は自然に、お前と浜地との結婚問題に落ちていった。
「だがお母さん、」と兄は笑いながら云ったもの
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