全に自分のものとしたい。
A――それでは結局、お前と俺とは、正反対のようで同じかも知れない。
B――同じのようで正反対かも知れない。
A――まあも少し、お互によく考えてみよう。
B――そうしよう。……それにもう夜明けだ。
A――彼女達が眼を覚ます時間だ。
AとBとの姿が消えて、二脚の椅子は空になる。畳敷の上に寝ていた若い女と看護婦とが、物に慴えたように突然眼を覚して、上半身だけで起上る。寝台に眠っている病人がかすかに身動きをする。二人は立上って、その方へ寄ってゆく。
病人――夜が明けたようだね。
女――まだなんでしょう。
病人――もう外は明るくなってるようだ。電灯を消して、カーテンを上げてくれ。
女は窓の方へ行って、カーテンを上げる。外は白々と明けかかっている。看護婦は電灯を消す。蒼白い黎明の光が窓からさしこむ。病人は一寸頭をずらして、その光をしみじみと眺める。
病人――今日も晴れらしいね。
女――ええ。いいお天気ですよ。
病人――窓の外に、お米か御飯粉か置いといてごらん。雀が屹度やって来るから。
女――はい。
看護婦――私が賄方の所から貰って参りましょう。
女――そう、ではどうぞ。……あなた、今日は御気分はどう。
病人――大変よいようだ。
女はほっと息をついて、病人の顔をしげしげと眺める。看護婦は扉から出て行く。病人は力ない微笑を窶れた頬に浮べながら、じっと窓の外を眺めている。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2005年12月8日作成
青空文庫作成ファイル:
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