。態度はつつましいが、腰には力がこもり、そして誇らかな微笑が頬に漂っている。
 ――吉岡は酒の最後の一滴まで飲み干した。酔いに頬を赤くほてらし、少しふらつく足取りで、散歩に出た。街路につもってる銀杏の葉を、ぱっぱっと蹴散らして歩いた……。信子よ、私は男だ。落葉を踏み砕き、蹴散らして、颯爽と歩きたいのだ。あなたは女だ、しとやかに歩きなさい。然し、あなたはまた母親でもある、力強く歩きなさい。感傷はやめよう。ごまかしの嘘もやめよう。そして私は陰ながら、あなたは表立って、喜久子さんの明朗な生長を見守りましょう。



底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
   1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「読売評論」
   1951(昭和26)年1月
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年1月2日作成
青空文庫作成ファイル:
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