より、鼻が高く、ギリシャ型というんですか……。そこにいくと、僕の顔なんか、どうも……。」
 大五郎は、帽子の絨毛と同じ色の手袋を、呑み台の上に投げ出していたのへ、ちょっと手をやり、その手ですぐ、日焼けのした頬を撫でた。
 相手の男は、ちらと見返しただけで、煙草をふかしながら、ちびりちびり飲んでいる。
「立派なギリシャ型の顔ですな。」
 こんどは、何の反応もなく、その横顔の筋肉一つ動かなかった。大五郎のことを全く無視してる態度である。
 だが[#「 だが」は底本では「だが」]、斜後ろの方から、しゃがれた女の声が飛んできた。
「お酒は一本きりですから、すんだら帰って下さいね。ここは、酒をのむところで、お饒舌りをするところではありませんからね。」
 それぐらいの女の声には、大五郎は何の痛痒も感じない。彼はゆっくり椅子から立上って、その方を向いた。そこの、土間から低い框になって、畳の敷いてあるところに、鮨の盆をのせた餉台をかこんで、商人風の二人の男と、三十四五歳の丸髷の女が坐っていた。
 しばらく、大五郎は女の方を眺めた。
「君が、お上さんかね。え、お上さんかい。」
 女はつんと彼方を向いて、
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