。彼は遂に己を破滅させるかも知れない。然し彼は言うであろう、自由のうちに破滅するのは本望だと。自由がこのように利用されることは太陽的である。自由とは自律の自由に外ならないと理解されるのであるが、ここではもはや、生長発展も破綻破滅も共に自律的なものとなる。
 このように説く時、政治的精神は驚いて叫ぶであろう。何たる個人主義ぞやと。然しそれは誤解である。この文学的精神は、個人主義どころか、新たな探求と建設とのために己を捧げてるのである。己を捧げてるが故にあらゆることが可能なのである。廃墟のことを忘れてはいけない。廃墟のなかに新たな建設が為されねばならないことを見落してはいけない。
 それにしても、少しく乱暴な精神だね。それが君の文学精神なのか。――そう筆者に尋ねる人もあるだろう。
 それに対して、筆者は微笑もて答えたいのである。――僕の精神は言わないが、吾々が持つべき文学精神なのだ。人間としての矜持ある逞ましい美しいものをそこに見出し得ないとするならば、それは怯懦の故であろう。そして怯懦は遂に真の自由をも建設をも知らずに終るであろう。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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