してゆく。このことは、旺盛な構想力なしには得られない。
文学は科学と取組むに至るであろう。勝負を争うのではなく、人間の名に於て科学を消化せんがためにである。実際に消化し得るかどうかは問題でない。現実の転位の場に於て、それを消化した人物を予想するのである。この人物が人間としての形態を持続し得るかどうか、生存しきれなくなって破綻の悲運に陥るかどうか、それを見てみたいものである。
そこに至るまでに先ず吾々は、各種の性格を発掘し或は創造しなければならない。この難路へ突進することに文学は怯懦であってはならない。この際の怯懦は文学を、安易な感傷や低俗な本能に阿諛させる恐れなしとしない。真に芸術的に体得された構想力が要望せらるる所以である。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月27日作成
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