、ああこれだ、と思ったのである。彼女の三味線の音締の力強さに驚きもしたが、それよりも一層、彼女の芸が単に精神的にでなしに肉体的にまで彼女を支持してるのに驚いた。彼女は全く一芸を体得してるのである。彼女から受けた私の感銘は、そういうところから由来したのであろう。彼女の芸を知ってから、そのことがはっきりしてきた。
 そういった風な認識、それを私は、童話の世界からふみ出した大人の認識と云おう。そしてそれが、具体的にはっきり表現出来るものならば、その表現こそ、主観的とか客観的とか云うところから一歩進んだ、本当の芸術的表現となるにちがいない。なぜなら、そういうところに、芸術の真諦があるからである。



底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
   1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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