怖いような気がするんだ。」
「どうしてでしょう。」
「君にすっかり話そうかどうしようかと、随分迷ったけれど、やはり出立前に話しておこうときめたんだ。さっき君は、どんなことにも驚かないといったね。」
「ええ、その通りよ。」
「では打明けるがね、驚いちゃいけないよ。徐和が死んだ時のことだ。僕はなんだかあの池のことが気になり、奇怪な太湖石のこともへんに眼について、あの時、窓からのび上がって、庭の方を覗いていた。すると、誰か、あの太湖石の方へ忍びよってゆく者がある。暫くすると、その男が、両手で太湖石を池の中へ押し倒した。そしてあの椿事だ。あの大きな岩が、セメントで固めてあった筈の岩が、容易くころげ落ちたのも不思議だが、その男が、岩を押し落し、身をかわすが早いか、ぱっと逃げ去った、その素早さには、僕は驚嘆してしまった。その男を、君は誰だと思うかい。」
「お分りになったの。」
「それが、伯父さんじゃないか。」
「まあ、お父様が……そんなことを……。」
崔冷紅は顔色を変えて、石のように固くなりました。
「だからさ、驚いちゃいけないといったんだよ。」
「だって、どうしてお父様が、そんなことを……。嘘
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