、いつのまにかうとうとしたらしい。そして夢をみた。
 ――誰だか分らないが、親しい四五人の者と一緒だった。狭い室で食事をしていた。変な獣が一匹前に蹲っていた。その胸から腹へかけて毛が※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]り取られていた。それに箸をつきさすと、薄い肉片がわけなく取れた。「旨《うま》い肉だ、」と誰かが云った。獣は間もなく、胸から足へかけて、骨ばかりになった。それが、生きた猫だった。「可哀そうだからこれ位にしておこう、」とまた誰かが云った。猫は起き上って、胸と足との肉をむしり取られたまま、のそりのそりと歩いていった。
 それから、皆は出かけることになった。
 石の段を上ると、あたりが真暗だった。曲りくねった坂道が続いていた。その道を歩いていった。皆も一緒だということは分っていながら、真暗なのでその姿は見えなかった。そのうちに、道の両側から幾人もの乞食が出て来た。不思議にその姿ははっきり見えた。皆筋骨の逞しい男だった。半ば裸体で、滑っこい餅肌《もちはだ》をしていた。それが、袂を捉え、手首を取り、はては首っ玉にかじりついて来た。どうにも出来なかった。
「石で殴りつけるがいい、」と誰かの声がした。で、両手に大きな石を拾って、それでやたらに殴りつけた。幾つも敷居のようなものを跨いで進んだ。それを一つ越す毎に乞食の群に出逢った。両手の石を振り廻して追っ払った。
 書後に[#「書後に」はママ]、石段があった。それを下りると、鉄のような重々しい扉にぶつかった。扉が少し開いていて、向うに仄かな明るみが見えていた。その扉を出ればもう大丈夫らしかった。
 ふと気がつくと、二人の乞食が後からついて来ていた。一人は、顔から肩へかけて一面に怪我をしていた。一人は力の強そうな大きな男だった。その大きな男が云った、「仲間の者に傷をつけた以上は、このまま通しはしないぞ」
 その男が乞食の親方らしかった。あたりを見廻すと、闇の中に多くの乞食が潜んでるらしかった。恐ろしくなった。懐から紙入を取出した。何程与えたらいいかと考えてると、闇の中から傴僂《せむし》の乞食が出て来て、両方の膝頭に、掌のような形をした足枷を投げかけた。それが膝頭にぴったり吸いついて、歩けなくなった。「復讐だ、」という声がした。今にも多くの乞食が出て来そうだった。恐ろしかった。扉からさす明るみを横目で見ながら、しき
前へ 次へ
全147ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング