枚めくって、押入の下に当る方を覗き込んだ。薪束の転ってる向うに、蜘蛛の古巣が破けかかっていて、黴臭い床下の地面が茫と横たわってるきりで、何等の異常もないし、少しの嫌な気も漂っては来なかった。
彼はぼんやり座敷へ戻っていった。
「如何でした?」という意味を眼付に籠めて、秋子は彼の顔色を窺った。
「何でもないよ。」と彼は自分自身にも云ってきかせるような調子で答えた。
がやはり、どうも腑に落ちなかった。薄気味の悪い変な押入だ! という気持が、頭の底にからみついてきた。
そこへ清が変梃なものを齎した。
或る夜のこと、電燈の光りが、潮の引くようにすーっと薄らいでいって、ぷつりと消えたかと思うと、またぱっとついた。おやと思う途端に、今度は本当に消えてしまった。座敷に居た秋子は、仏壇の蝋燭を探し当てた。二階からは晋作が、玄関からは清が、手探りにやって来た。そして秋子と晋吉とを加えて、ぼーっと赤い蝋燭の光りのまわりに、皆で集った。かと思うと、じきに電気が来た。なあんだという眼付で互に見合った。
お茶でも飲もうということになったが、生憎鉄瓶の湯がぬるかった。清はそれを瓦斯の火で沸しに、台所へ立って行った。ばたりばたりと、肥った短い足先の上草履の音が、廊下に二三歩聞えたかと思うまに、あれっ! という叫び声と、がたりと鉄瓶を取落した音とが、殆んど同時に聞えた。瞬間に、総毛立った清の顔が、座敷へ飛び込んで来た。――廊下を二足三足歩き出して、何気なくわきを見ると、女中部屋の障子の向うに、真黒な大入道が、ぬーっと延び上った……までは覚えているが、後は一切知らない、と彼女は云った。
その様子が余り真剣なので、皆はぎくりとした。けれども兎に角、晋作が先に立ち秋子が続いて、女中部屋を窺いに行った。玄関から廊下へ出ると、真黒な大きな奴が、障子にぬーっと現われた。がそれは、玄関の電燈の光りで投げられてる、自分自身の影だった。
安心すると、可笑しくなった。
「おい、皆で来てごらん、大入道が居るから。」
晋作の声の調子に元気づいて、皆は座敷から出て来た。大きな影が幾つも重なって、眼の前の障子に映った。
「やあ、大入道が沢山居らあ!」と晋吉が叫んだ。
「お前のは小入道じゃないか。」
そして皆は、まだ先刻の驚きから醒めずにいる清を除いて、障子に影を映し合った。けれど、それが次には不気味になって
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