多く働いて、ある時、酔ったまぎれに、そこの仲居にそれとなく探りを入れてみると、大丈夫ですよ、とは云うものの、本人の気も引いてみたくなりましてね……。
「ああ酔っちゃった、今晩泊っていってもいいかしら……。」とまるで他人事《ひとごと》のようでした。
「ええ、いいわ。」
 至極簡単に、あっけなく片附けられてしまったものです。そしてその晩、万事が、やはり、至極簡単にあっけなく……。
 妙なもんでして、こっちの気をもたせるような、何かこう少しでも愛想を示されたら、私もそれきり忘れたかも知れませんが、あまりあっさりとやられたものですから、却って心残りがして、それがきっかけで、度々通うようになりました。そして度重るにつれて、私の心は、ぬるま湯にでもつかるように、彼女に囚われていきました。全く、ぬるま湯でした。彼女は何一つ私に逆らうことがなく、何一つ私の気持にさわることがありません。二人はほんとに気が合ってるんだな、とそう思うようになりましたよ。
 ところで、いくら、質屋の若旦那……という年配でもありませんが、親父がまだ元気で、店の方のことは大体見ていてくれますし、私は責任の軽い身で、親父の代りに、交際《つきあい》の宴会に出たり、取引先を廻ったりするだけで、隙でぶらぶらしていて、学生時代から好きだった「芸術」をなまかじりしたり、文学者や画家たちのお伴をして飲み廻ったり、尤も、そんな時には金は私が払うことが多かったのですが、とにかく、年にも似合わないよい身分の若旦那でしたが、それでも、さすがに考えましたね。こんな風に、とき弥と無駄な金を使ってるよりは、いっそ彼女に一軒家をもたしたら……。それに、文学者や画家なんていう者は、無遠慮なのが多くて、私ととき弥との間を知っておりながら、酔っ払うと、彼女に戯れかかったりして、それをまた彼女が平気で笑っているのが、私には心外でもありましたし、その上、彼女は丸抱えの身で、堅くしているわけでもないことが、よく分っていました。
「どうだろうね、さっぱり足を洗って、家でも一軒もつようにしては……。」
「ええ、いいわ。」
 それが当然だとでも云うように、至極あっさりしています。なお仕合せなことには、彼女がいくらか面倒をみてやっていた郷里名古屋の母と妹とが、近頃文房具屋をはじめて、それが案外よくいって、その方の心配が一切なくなったところでした。
 少々無謀
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