顔を挙げて言った。
「母がいなかったら、母でなかったら、僕は、こんな土蔵なんか、ぶっ壊してやる。」
 その顔を、久子は見つめ、それから急に、眼にいっぱい涙をためた。
 二人ともそれきり黙りこんだ。二階では、白猫も遊び疲れたのか、何の物音もなく静まり返っている。



底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
   1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「思索」
   1949(昭和24)年4月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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